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童話の時間

鷹(12)


 次に月が来てくれるまでの間に、鷹は何から話そうか考えました。
 あまり飛びたいのに飛べない辛さばかり訴えては、聞かされる方も同じように辛いだろうと思ったからです。
 せっかくわざわざ来てくれるのだから、楽しい話もしたいと、知恵を絞りました。
 月が、「来てよかったな。また来てやりたいな」と思ってくれるように。

 それで、自分が自由だったころ、どんなに飛ぶことが楽しかったかを話すことにしました。

 野山を自由に飛び廻っていた時のことを、鷹は丹念に思い出していきました。

 そんなある日、とうとう月が訪ねて来てくれたのです。



 それはカーテンをすっかり閉ざしても、なお部屋の中にぼんやり明かりが灯っているような晩のことでした。


「やあ、こんばんは。どうしているね?」

「ああ、お月さん! 本当に来てくださったんですねえ」

「ああ、来たよ。約束したからの。
 来られなかった間、ずっと気になっていたよ。

 ……どうだね? このころは。
 やっぱり、悩んでいるのかい?」


「ええ、それはそういうところもあるんですが……。
 でも、近頃は、楽しいことを思い出すようにしているんです。
 お月さんが折角いらしてくれるんだから、愚痴ばかりじゃつまらないと思って」


「そりゃ偉いじゃないか!
 よくそういう気になられたの。
 それだけでも、わしも、来た甲斐があったというもんじゃ」

 月は安心したように微笑みました。
 つられて、鷹の動かない顔にも、笑みが浮かんだようでした。

「俺、本当に、飛ぶことが好きだったんですよ。
 飛ぶって、独特の気持ちがするんです。
 ほかのことにはない爽快さがあるんです」

 鷹は、はやる気持ちを抑えながら、つとめて静かに話し出しました。









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by nakamura-fumine | 2019-07-11 18:59

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