2019年 02月 24日
針ねずみと笛吹き(6)
「……死んじまったのかな?」
「案外、あっけなかったな」
「ちぇっ、もう、おしまいかよ」
少年のひとりが、破れた靴の爪先で針ねずみを蹴りました。
そのとき、息を吹き返した針ねずみが、その足先にかみつきました。
「なんだ、こいつ、これで俺達に逆らっているつもりかよ?」
少年たちはせせら笑いました。
針ねずみはかむ力が弱いので、思いっきりかんでも、ちっとも痛くないのです。
針ねずみは今度は体を丸めると、自分をつかもうとした少年の手に体当たりしました。
「いてっ! こいつうっ! 生意気な奴だ! こうしてやる!」
怒った少年は、針ねずみをつかむと、川へ向かって力いっぱい放り投げました。
投げられた針ねずみは、冬の空に大きい弧を描くと、凍るような冷たい川に、ばっしゃあんとはまってしまいました。
針ねずみは泳ぐことができませんでした。
それどころか、水に入るなんて、生まれて初めてのことだったのです。
驚いた針ねずみは、沈まないよう短い手足を必死に動かして、ばしゃばしゃともがきました。
それがおかしくて、少年たちは大声で笑いました。
川の波にもてあそばれ、何度もたくさんの水を飲みながら、針ねずみは溺れまいとあがきました。
そのときです。
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by nakamura-fumine
| 2019-02-24 14:43