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童話の時間

ある後家さんのお話(16)


 心配そうにみなの様子を見守っていたおかあさんは、ようやく笑顔になって答えました。

「村長さん、みなさん、今日は本当にありがとうございました。
 夫を亡くしてから、わたしは何もかも独りでやらなくてはいけない、
 もう誰も助けてはくれないのだから、と思っておりました。
 けれども、それは間違いでした。
 村長さんを初め、村のたくさんの方がわたしと坊やのことを心配してくださり、
 今夜のこの食卓のためにさまざまな材料を分けてくださいました。
 今日使いました材料で、わたしが一から育てたものはひとつもございません。
 すべて村長さんのお知恵から、みなさんが快く分けてくださったものばかりです。
 その上、お店を開くお知恵まで授けていただきました。」

 おかあさんはここでちょっとことばを切りました。
 そして、ひときわ明るい声で続けました。

「ぜひ、そうさせていただきたいと存じます。
 それならわたしにもできますし、坊やにも手伝えます。
 お店を開きましたら、村長さんもみなさんも、どうぞいらしてください。
 これからも、よろしくお願いいたします」

 村の人たちはみんな笑顔で、ぱちぱちと手を叩きました。

 こうしておかあさんは、おそうざい屋さんを開くことになりました。

 おかあさんはお店の名を「きこりの店」とつけました。
 なぜならおかあさんは亡くなったおとうさんを今でも大好きでしたし、これからもずっと愛していくことがわかっていたからです。

 村の人たちは、何かいいことがあったり、仕事を頑張った日や、おいしいものが食べたいなと思った日、それから特に何もない日にも、「きこりの店」におそうざいを買いに行きました。

 お店は毎日、たいそう繁盛し、おかあさんは、自分の料理を食べた村の人たちが幸せな気持ちになってくれるよう願いながら、毎日、おいしいものを心を込めて作り続け、坊やを立派に育てました。



                                (終わり)

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# by nakamura-fumine | 2018-11-15 08:58 | Comments(1)

ある後家さんのお話(15)


 村長さんの号令で、村の人たちはみな手を合わせて「いただきます」と声をそろえると、一斉に料理を食べ始めました。

 口々に、「おいしいね」「おいしいね」と言いながら。

「こんなうまいものは初めてだ。うちの肉が、こんなにしゃれた料理になるなんて」

 お肉屋さんが言うと、

「本当だなあ。わたしは長い間牛乳をしぼってきたが、ただ飲むことしか知らなかったよ。それから、捨てていた脂肪も、役に立つんだねえ」

 牛飼いも答えました。

「今まで食べたどの卵焼きとも違うなあ。なんだか力がついて、元気が出て来たみたいだ」

 卵屋さんはじっくりとキッシュを味わっています。

「うちの野菜が、こんなにハイカラになるなんて」

 畑を持っているお百姓さんも、コロッケをぱくぱくとほおばっています。

 奥さんたちも、「こんなにおいしいもの、わたし、初めていただいたわ」と言い合いました。

「それに、どの料理も、お米によくあっているよ」

 もみがらを分けてくれた、田んぼ持ちのお百姓さんも感心しました。

 子供たちは冷たいアイスクリームと甘いりんごのパイに大喜びです。


 村長さんが、

「どうですか、きこりの後家さんのお料理は?」

と尋ねると、村の人々はみな、口々に

「おいしい」

「また、食べたい」

と、言いました。

 そこで、村長さんは言いました。

「どうかね? 後家さんはこれから、料理を作って売るお店を開いたら?
 村の人たちが農作業で忙しい時や、具合が良くなくてごはんを作るのが難しい時にも助かるだろう」

「そりゃ、いい考えだ」
 
 卵屋さんがぽんとひざを打つと、奥さんたちも、

「自分では作れないけれど、きこりの後家さんの作ったもの、ちょくちょく食べたいと思ったのよ」

 と、嬉しそうです。

 村人たちはみな、大賛成でした。



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# by nakamura-fumine | 2018-11-09 12:16 | Comments(0)

ある後家さんのお話(14)


 さあ、おかあさんと坊やは大忙しです。

 村中の人のごちそうを、限られた時間で二人きりで作るのですから。

 狭い台所で、二人はくるくるとよく働きました。

 おかあさんは、牛飼いが捨てようとしていた脂肪を瓶に入れてよく振って、バターを作りました。

 牛乳を温めてお酢を加えてかき混ぜて、チーズもこしらえました。

 三つのコンロには、お鍋とフライパンが入れ替わりかかりっぱなし。

 坊やも小さい手でお芋を潰したり、お鍋をかきまぜたりして手伝いました。

 容れ物に入れたクリームを何度も空高く放り投げて、アイスクリームも作ります。

 よく働いた甲斐あって、夕方までに村の誰もが見たことも食べたこともないようなしゃれた料理がすっかり出来上がりました。

 どれもほかほかと湯気を立てて、おいしそうです。
 
 おかあさんと坊やは、こぼさないように注意しながら、出来上がった料理を全部、村長さんの家へ運びました。



 村長さんはその間、村の家を一軒一軒廻ってこう伝えていました。

「今夜、わたしの家で食事会を開きます。
 お疲れのところ恐れ入りますが、ぜひともいらしてください。
 夕食を食べずに、おなかをすかしておいでください。
 家中、みんな揃ってね」

 夕方になって、村長さんの家には次々に村の人がやって来ました。

 いくつものお膳の上には何ともハイカラな、外国のものらしい料理が所狭しと並んで、よい匂いが漂っています。

 牛乳のたっぷり入ったシチュー、チーズの入ったほうれんそうのキッシュ、挽き肉入りのコロッケ、トマトで煮込んだロールキャベツ、甘酸っぱいピクルス、中にいろいろな具の入ったおにぎりも、真っ白なアイスクリームを添えたりんごのパイもあります。

 村の人がみな集まったところで村長さんが言いました。

「さあ、今日はきこりの後家さんの新しい出発の日です。
 この料理は全て後家さんが作ったものです。
 みなさん、召し上がっていっしょにお祝いしてください。
 それではみなさん、いただきましょう」


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# by nakamura-fumine | 2018-11-05 09:51 | Comments(2)

ある後家さんのお話(13)


 帰り道、おかあさんは重い荷物を抱えて、村長さんにお礼を言いました。

「村長さん、ありがとうございます。
 おかげさまで、こんなにたくさん食べ物を手に入れられました。
 これだけあれば、当分、暮らしていけるでしょう」

 ところが村長さんは意外なことを言いました。

「いやいや、これはおまえさんと坊やだけで食べるのではないよ。
 実はわたしにもうひとつ考えがあるのだよ」

 そして、こう続けました。

「さあ、これでおいしい料理をたくさんこしらえなさい。
 村の誰もが食べたことのないような、とびきり珍しい美味しい料理、
 しかも毎日食べても飽きの来ない料理をね」

 おかあさんは、村長さんがなにを考えているのかわかりませんでした。

 けれど、今まで村長さんの言うことを聞いて間違ったことがあったでしょうか。

 現に今も、何の役にも立たないと思っていたもみがらで、こんなにたくさんの食べ物が手に入ったではありませんか。

 ですからおかあさんは、何としても村長さんに言われたような料理を作ろう、と決心しました。

 村の誰もがこれまで食べたことのない、しかも毎日のごはんのおかずになるとびきりおいしいものを。

 ですが、さあ、いったい何を作ればいいのでしょう?

 おかあさんは、お嫁に来るとき持って来た、とっておきの料理の本を引っ張り出しました。

 それは嫁入り道具を揃えるときに大きな町の古い本屋で見つけたもので、ここではないどこか遠くの国のおいしい料理がいっぱいのっていました。

 お嫁に来たばかりの頃、まだ今よりずっと若かったおかあさんは、毎日山で一生懸命働く夫のために、その本の中からいくつもの料理を作って食卓をととのえたものでした。

 しかし、いつの頃からか、その本は棚の奥深くしまいこまれていました。

 毎日作るにはあまりに贅沢でしたし、手間ひまもかかりすぎたからです。

 ですが、村の誰もが食べたことのない料理と言われて真っ先に心に浮かんだのは、この本のことでした。

 それで、おかあさんは、昔よく作ったもので夫が好きだったもの、村のみんなの口に合いそうなものは何だろうと考えました。

 そして、よくよく思案して幾つかの献立を選び出すと、早速、調理にとりかかりました。




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# by nakamura-fumine | 2018-11-04 06:17 | Comments(0)

ある後家さんのお話(12)


 そして二人は最後にもう一度、初めにもみがらをくれた、田んぼを持っているお百姓さんをたずねました。

「やあ、村長さんにきこりの後家さん、これは大変な荷物ですな」

 お百姓さんは、あれこれ荷物を抱えた二人を見て目を丸くしました。

「いや、みんなあなたのおかげですよ」

 村長さんが言うと、お百姓さんは、

「はて? わしの? わしが何かしましたかいな?」

と、首をかしげました。

「みなさん喜んで、もみがらと交換してくださったんですよ」

「へ? もみがらと? それはいかに村長さんのお言葉でも、にわかには信じられませんがな」

「いえ、もみがらも使い方ひとつで役に立つのです。
 お百姓さんの分も、残しておきましたよ」

「いや、わしは自分でも持て余して、貰ってもらったんじゃが……」

「いえいえ、これを上手く焼いて灰にして田んぼにまくと、よい肥料になるんですよ」

「ほう? そうなのかね? そんなことは初めて聞いた」

「ですからお百姓さんも、これを使ってください」

 村長さんは残りのもみがらの入った袋をお百姓さんに渡しました。

「これはこれは、もみがらまで役に立つようにしてくださるなんて、嬉しいですな。わしにとっちゃ、もみがらだって、お米と同じようにかわいいもんなんですわいな。大切なお米を守ってくれたものですからなあ。
 いや、ありがたい、ありがたい」

 お百姓さんは喜んで、お米をどっさりくれました。




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# by nakamura-fumine | 2018-11-03 16:00 | Comments(0)

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