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童話の時間

鷹(14)


 「そういえば、外の建物の間に梅の木が一本残されていて、つぼみが目立ちはじめていたよ」

 月の一言に鷹の脳裏に浮かんだのは、懐かしい野山の春先の情景でした。

「山の梅の木は、今頃、どうなっているでしょう」

 鷹は紅や白の花の咲く梅の木を思い出しながら尋ねました。

「日のよく当たるところのつぼみは、もうだいぶ膨らんできているよ。
 しばらくすれば、ほころんでくるだろう」

「あれはいい匂いだったなあ……」

 鷹はふくいくたる梅の香りを思い出しました。
 月が答えて言いました。

「ああ、梅の香りはいいね。鶯も飛んでくるね」

「あれは声はいいが、あまり美味くはないんだ」

「ははは……、花よりなんとやら、か」

「思えば、生きるためとはいえ、可哀そうなことをして来たもんです」

「…そうじゃね。食べられたものたちは可哀そうだったね。
 でも、おまえさんには生きるために必要だっただけじゃ。
 仕方のないことじゃったんじゃよ。
 だから、決して自分を責めるでないよ。
 神様のお決めになられたことに間違いがあるはずがないんじゃよ」 
 









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# by nakamura-fumine | 2019-07-22 16:30 | Comments(0)

鷹(13)


「飛ぶってね、気持ちがいいんです。
 大空をゆったりと羽ばたいていると、自分がすごく大きくてすごく強くなったような気持ちになるんです。
 鳥の王様にでもなった気がして、どんなことでも出来る気になるんです」


「そうだ、おまえさんは本当に鳥の中の若き王のように立派で堂々としていたよ」


 月が感心したように言うと、鷹はちょっと照れました。
 でも、とても嬉しく思いました。
 まるで今、自分がかつてのように雄々しく勇敢な、自由な鷹に戻ったような気がしたのです。


「悠々と飛んでいるときは、風になったように感じるんです。
 獲物に向かって急降下するときは、稲妻になったんじゃないかって思うほどです」


 思い出しながら話しているうちに、その時々の感覚が鷹の身体のうちにありありと甦って来るようでした。


「ああ、俺、鷹に生まれて本当によかった……」


 鷹はしみじみと言いました。


「俺は飛ぶことが心から好きだった。本当に好きだった。
 飛ぶことが俺の幸せだった。
 ときには獲物を探すためではなく、ただ飛ぶために飛んだものだ。
 飛ぶことが俺の全てだった……」


 はく製になった鷹の目には義眼が入れられていましたが、その目はそのためにいつも、ここにある何かではないどこか遠く過ぎ去ったものを見つめているように見えました。


「獲物を探していても、飛んでいるうちに、お腹の空いたのなんかいつの間にか忘れて、そのまま飛び続けたこともあったなあ……」


 鷹はうっとりとつぶやきました。


「……そうか、おまえさんはそんなに飛ぶことが好きだったんだね。
 本当に、心から好きだったんだね。
 飛んでいさえすれば何もかも忘れるほど好きだったんだね」


 月が言うと、鷹は動かぬ体で何度も頷こうとしました。
 そうなんだ、その通りなんだ、それこそが俺の言いたかったことなんだ、と思って。


 何を言っても月が「そうなんだね」と言ってくれるので、鷹は安心して何でも打ち明けることができました。
 そうしてその度ごとに、「ああ、俺はそう思っていたんだ」と、自分でも気がつかなかった自分の本当の気持ちを知ることができたのです。










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# by nakamura-fumine | 2019-07-15 15:56 | Comments(0)

鷹(12)


 次に月が来てくれるまでの間に、鷹は何から話そうか考えました。
 あまり飛びたいのに飛べない辛さばかり訴えては、聞かされる方も同じように辛いだろうと思ったからです。
 せっかくわざわざ来てくれるのだから、楽しい話もしたいと、知恵を絞りました。
 月が、「来てよかったな。また来てやりたいな」と思ってくれるように。

 それで、自分が自由だったころ、どんなに飛ぶことが楽しかったかを話すことにしました。

 野山を自由に飛び廻っていた時のことを、鷹は丹念に思い出していきました。

 そんなある日、とうとう月が訪ねて来てくれたのです。



 それはカーテンをすっかり閉ざしても、なお部屋の中にぼんやり明かりが灯っているような晩のことでした。


「やあ、こんばんは。どうしているね?」

「ああ、お月さん! 本当に来てくださったんですねえ」

「ああ、来たよ。約束したからの。
 来られなかった間、ずっと気になっていたよ。

 ……どうだね? このころは。
 やっぱり、悩んでいるのかい?」


「ええ、それはそういうところもあるんですが……。
 でも、近頃は、楽しいことを思い出すようにしているんです。
 お月さんが折角いらしてくれるんだから、愚痴ばかりじゃつまらないと思って」


「そりゃ偉いじゃないか!
 よくそういう気になられたの。
 それだけでも、わしも、来た甲斐があったというもんじゃ」

 月は安心したように微笑みました。
 つられて、鷹の動かない顔にも、笑みが浮かんだようでした。

「俺、本当に、飛ぶことが好きだったんですよ。
 飛ぶって、独特の気持ちがするんです。
 ほかのことにはない爽快さがあるんです」

 鷹は、はやる気持ちを抑えながら、つとめて静かに話し出しました。









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# by nakamura-fumine | 2019-07-11 18:59 | Comments(0)

鷹(11)


「新で別の世界に行った者達も、今の俺のようなじりじりした気持ちで苦しんでいるんでしょうか?」


「……それはわしにはわからんよ。
 わしはいつまでもこの世界に留まるしかないからの。

 それにしても、おまえさんが望まぬ身になって、たった独りで辛く苦しい思いをしていることは、気の毒じゃのう。
 しかし、わしにしてやれることは、可哀そうじゃが、何もないんじゃ」


 鷹はがっかりしましたが、月が自分のことを心配して心を痛めていることはわかりました。
 それで、かえって空元気を出して言いました。

「いえ、そんなことはありません。
 何もしてくれないなんてことはないのです。

 だって、こうして今、俺と話をしてくれているじゃないですか。
 俺の話を聞いてくれているじゃないですか。

 それだけで、俺は今、どんなに慰めていられるかわかりません」

「そうか、それはよかった。
 
 ……それならこれから、わしの光が少しでもこの部屋に射している晩や、カーテン越しにでも明るさが漂っている夜は、時折やってくるから、わしと話をしてみるかい?」

「本当ですか!」

「ああ、本当じゃよ。また来るよ。
 ほほう、何やら、元気が出たようじゃないか」

「ええ、だって、俺、今、とても嬉しいんだ」

「ははは、それはよかったの。
 では、今日はもう遅いから、これでおやすみ」

「おやすみなさい」









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# by nakamura-fumine | 2019-07-06 09:10 | Comments(0)

鷹(10)


「……おまえさんは、猟師の鉄砲に撃たれて死んだのだよ。
 そして、「はく製」というものにされたのだ。
 魂のない、亡き骸だけがそのまま永く残るものさ。
 普通は死ぬと、魂はこの世とは別の世界に行くらしいのじゃが……。

 いや、わしは生き物と違って、死ぬことがないのでのう……。
 
 ところが、おまえさんの魂は、この世界、生命のある者のいる世界にそのまま留まってしまったようじゃなあ……。
 
 気の毒なことじゃ……」


「俺のほかにも、死んで死にきれなかった鷹がいたってことでしょうか?」


「鷹だったかはわからぬが、そういう話をどこかで聞いたような気はするな。

 ……しかし、すまんが、もうよく憶えていないのじゃよ。
 何しろ、わしはあまりにたくさんのことを見聞きしてきたでのう……」

「……罰なんでしょうか?」

「いや、そうではないよ。
 もし、生きるために命を喰らうことが罪というのなら、わざわざ罪を犯すように創られるわけはないからの。

 ただ、おまえさんは、生きるためにはほかのけものを食う必要があったというだけじゃ」

「……そうですか……」

「そうじゃよ。
 今、おまえさんの魂は自分の亡き骸の中にいる、というだけのことじゃ。

 そのことそのものは、良いわけでも悪いわけでもない。

 おまえさんにとっては、都合のよくないことのようじゃがの」









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# by nakamura-fumine | 2019-07-03 14:48 | Comments(0)

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